シャンソン歌手・故 出口美保が、師匠であった故 菅美沙緒先生のご尽力のもと、フランスのシャンソン歌手、故 ジルベール・ベコーさんのお名前を頂戴し、「大阪にもシャンソンの灯を」との想いから、1979年9月10日に開店しました。「ベコー」のロゴはジルベール・ベコーさんの直筆です。
その後、長年に渡り、月曜から土曜まで毎日シャンソンのライブを開き、大阪の街にシャンソンの灯りを灯し続けて来ていました。しかし、2020年のコロナ禍には、すでに高齢となっていた出口の力では、休店から再開できずにいました。
出口の娘として、ベコーは少なからず私の人生に関わって来た場所でした。しかし、私自身は歌手でも、音楽家でも、業界人でもありません。けれど、コロナに負けて消滅するのは、どうしても納得がいきませんでした。「私がやろうか…」そう思って動き出し、店舗のリフォームも終わり、これからと言う時に出口が他界しました。87歳でした。出口を再びベコーのステージに立たせる機会を逸したままでした。
母である出口のためにと思って動いていたわけではないのですが、主を亡くした店を、やはり閉じようかとも思いました。しかし「このまま終わるのは、ベコーを愛してくださっている歌手の皆さんにも、お客様にも、お店にも申し訳ない。なんだか悔しいし、何よりもったいない!できるところまでやってみよう。」そう思いました。
「chanson(シャンソン)」は、1つの音楽ジャンルを示す言葉であると同時に、フランス語で「歌」と言う意味でもあります。
「シャンソン」と言うと「知らない」「難しそう」そんな声が聞こえて来ます。聴いてみれば、誰もが人生の中で経験するような心の機微や出来事が目に浮かびます。子どもの頃から耳にしていた私に言わせれば、「フランスの昭和歌謡」です。ちょっと親しみを感じていただけるでしょうか。
ハードルを感じられがちな「クラシック」や「ジャズ」も同じような声を聞きます。ヨーロッパに旅行に行くと、街角の小さなサロンやレストランで、小さなクラシックのコンサートが、あちこちで開かれていることが、とても素敵に思えました。そんな風景が日本ではなかなかお目にかからないことを不思議に思いました。シャンソンも、クラシックやジャズも、なんだかんだとウンチクを知らないと聴いてはいけないような空気を感じてしまいがちです。
いずれにせよ、ウンチクはそれはそれで面白いので良いと思うのですが、「音楽」なのだから、音を楽しめばいい。そう思いませんか?私はそう思っています。だからこの店を音を楽しむ、歌を詩を言葉を楽しむ。そんな場所にしたいのです。
アーティストもお客様も音楽を通して心通わせ、楽しめる場所にしたいと思っています。
今時のデジタル音満載の作り込まれた音楽も良いですが、忙しい日々に、人として、五感を通して取り込める音と言葉の波に、心と身体を浸して、癒して、お帰りください。
シャンソニエとして、歌とシャンソンを柱に、ジャンルや世代を超え、音楽を中心に、多彩な音色が集い、演じる人と聴く人が、心を通わせる時間と空間を、アーティストとお客様と一緒に作って行きたいと思っています。
オーナー:はやかわ こう
編集中